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花たろう物語
は、はじめまして、ぼくはくまです。
少し緊張しています。
だって、ぼくは、世界中の人と話ができる、コンピューターの中にいるから。
こんな有名ぐまになるなんて、思ってもみなかった。
話の下手なぼくだけど、
ぼくが見てきた「花たろう」の話をするよ…
1
ぼくが、「花たろう」に来たのは、10年くらい前のこと。
アパートの1階の料理屋さんに挟まれた小さいお店だった。
青と白のしましまのテント、白い木の自動ドア、古い大きなテーブル、木の床は歩くたびに、きしきしと音をたてた。
通りで一番太いけやきの木が店の前を狭くしていた。
そのせいか、立ち止まる人は少なかった。
花は、空きビンや、バケツに入って、あちこちにあった。
ぼくは、古い大きな棚の4段目に置かれ、1日に何度も右を向かされたり、左を向かされたりしていた。
なんだか紙がついたきゅうくつなひもを首に巻かれていた。
ぼくは「1800円」っていう名前だった。
2
お店に赤ちゃんがいてね、ぼくがうとうとしていると急に耳がくすぐったくなって
その赤ちゃん、ぼくの耳をペロペロなめるんだ。くすぐったいたらありゃしない。
赤ちゃんが泣きやむと、ぼくは、また棚に戻されて、ポーズをとるように置かれるんだ。
エプロンをした女のお腹が、3回ふくれたのを覚えてる。
3
クリスマスがくる度に、お店の中も少しずつ賑やかになってきた。
ぼくがいる棚からの眺めは最高さ。
お店の花がぜ〜んぶ見わたせる!
ときどき、床が見えないくらい花でいっぱいになった。僕の横にまで花がきた。歌もうたいたくなる。
でも、そんな時、店ではいつもエプロンをした女とシャチョウという男がもめている。
花がいっぱいありすぎると、これもまた2人にとって問題らしい…。
ぼくまで「早く誰か、花を買ってくれないかなぁ」なんて、思ってしまう。
ある時、ぼく気付いたんだ。
花たろうに来るお客さん、きまって最初に「あら、いい匂い!!」って言って入ってくる。
4
残念なことに、1日中いるぼくにはその、いい匂いがわからない。
鼻があと1cm高ければよかったかな。
ときどき、ぼくがいる棚に、すかしたやつらがやって来た。そいつらのせいで、窮屈になった。
体を斜めにして座ってないと、落っこちそうだ。
そいつらにも、名前がついていた。
1200円、980円…
でも、そいつらはすぐにおさらばだった。
バスケットの中の花束に、行儀良く座って、ラッピングされていった。
花瓶に映るぼくは、わりと、いかしてると思うんだけどな。
5
10年たった、ある夏のこと。
花たろうに危機!?
花もすっかりなくなり、みんなで荷造りしては、どこかへ運び出している。
ぼくも箱の中へしまわれた。
箱の中は真っ暗で、ちょっとさみしくなった。
箱の中で、ぼくは、ぼくに優しかった人たちのことを思い出していた。
みんな、ぼくのホコリを強く優しくたたいてくれて 本当にありがとう…
6
2週間くらいたって、坊主頭の山ちゃんが、ぼくを箱の外へ出してくれた。
引っ越しか…窓から、また似たようなケヤキの木が見えた。
どうやら、引っ越し先はそう遠くではないらしい。
シャチョウという男と、エプロンをした女の聴き慣れた声がなんだかうれしかった。
うーさんは、ぼくを久しぶりにお日様にあててくれた。
少し広くなった店先は、風邪も気持ちよかった。
日向ぼっこのぼくに、間違ってジョーロで水をかけたのは、ふな○し!?
おかげですっかり目が覚めた。
新しい「花たろう」は、空に溶け込むような青いペンキで塗られ、赤や黄色の花たちが蝶や小鳥を呼び寄せている。
ぼくは、屋根の上の風見ブタを見ながら、大きく深呼吸をして、緑をいっぱいすいこんだ。
ぼくは、「花たろう」が大好きさ!!
だから、世界中の人に来て欲しいんだ。
つづきは20年後。
ぼくはプレミアつきで10万円に改名してるぜ!